泣きたくなるようなキス  なきたくなるようなきす

                
−弁慶Side−  /  シリアス












もうすぐだ。






望美の姿を探しに陣の外に出てきた弁慶は、ふと思う。

別れの時は近い    と。






もうすぐ、弁慶は源氏を離れなければならない。



己の使命を果たすために。

大切なものを、護るために。



ようやく果たされる時がきたというのに、胸がちくりと痛む。

それは。






不意に、弁慶は探していた少女の姿を発見した。


「望美さ…」


声をかけようとしたものの、弁慶はふと言葉を失う。






陽の光を浴びた望美の姿が、あまりにも美しくて。






弁慶は、その身体を思わず抱き締めていた。


「望美さん?」


驚いて振り返った望美はどこか泣きそうな顔をしていて、胸が締め付けられる。






ソ ン ナ カ オ ヲ シ ナ イ デ






思わず、想いを口に出してしまいそうになる。






「ここにいたんですね。皆が探していましたよ」


この想いを…自分がこれからしようとしていることを悟られないように、弁慶はいつもと同じ笑顔を作る。


この嘘の笑顔は、見破られない自信がある。






だが。






腕の中の望美は、更に泣いてしまいそうな悲しい顔をしていて。


弁慶はそっとその腕を解き、その新緑色の瞳を見つめた。


「どうか、したんですか?」


「なんだか…緊張してるみたいです。もうすぐ、戦が終わるから…」


そう言って、望美は笑顔を見せる。






だが、その笑顔がぎこちない。






瞳の奥には、悲しみが見える。

弁慶が好きなのは、こんな作り物の笑顔ではなく…心からの笑顔なのだ。



こんな風に、無理に笑って欲しいわけではない。



弁慶は、望美の身体を再び抱き締めた。

その身体は、すぐに壊れてしまいそうなほどに華奢で。






「弁慶さ…」


「…嘘、ですね」


新緑色の瞳は一瞬驚いたように見開かれ、そしてすぐにまた作り物の笑顔に戻る。


「嘘なんかじゃ…」


「嘘ですよ、だって…」


そっと、弁慶はその頬に触れる。






触れてはいけない。

想いが…溢れてしまう。






今にも泣き出してしまいそうな顔をしていますよ?






弁慶の言葉を聞いた望美は、再び笑顔を作った。


先程の、作り物の笑顔ではない。


だが、不安そう笑顔。


「…緊張してるのは、嘘じゃないですよ。でも…」






怖いんです。






望美の手が、弁慶の手に重ねられる。

その温もりが暖かい。






だが。






その先は言ってはいけない     と。

弁慶はその瞳を逸らしてしまいそうになる。






だが、望美のその瞳が、まるで全てを吸い込んでしまうようで。






「望美さん…」


「一緒に、いたいんです。ずっと…」


一生懸命、望美が想いの言の葉を紡ぐ。






聞いてはいけない。

聞いてしまったら、この想いが止められなくなってしまう。






「弁慶さんが、好きだから…」






真っ直ぐと弁慶を捉える新緑色の瞳は、今にも泣き出しそうに潤んでいる。






この手を離さなくてはいけないと、そう思っているのに。

この想いを受け入れては…触れてはいけないとわかっているのに。






弁慶は、思わず望美のその桜色の唇を奪っていた。


その唇は、甘くて、切なくて     痛い。






「弁慶、さん…」


「…君の気持ち、とても嬉しいです。僕も…」


一瞬戸惑い、だが…弁慶は想いを口にする。






弁慶がこれからしようとしていることは、きっとこの愛しい少女を泣かせてしまう。



優しい女(ひと)だから。



だが、今この瞬間だけで良い。

想える至福を感じていたい。






     君のことが好きです。






耳元で、そっと囁く。






これは…この想いだけは、偽りのない真実。






「…戦が終わったら、その時は…」






今だけの、まるでその場しのぎになってしまうような言の葉。

戦が終わったその頃は、きっと自分は隣に居ることは出来ない。

もうこうして触れることも…出来ない。

だが。






     ずっと、僕の隣にいてくれますか?






紡がれたこの言の葉に、きっとこの少女は「はい」と言ってくれる。

だが、それは決して叶うことのない望みだから。






弁慶は望美が返事を紡ぐよりも先に、その唇に再び甘い口付けを落とした。










きっと、僕は君を傷つけてしまうけど、僕のこの想いだけは忘れないで欲しい。


偽りの中の、唯一の真実だから。








ありったけの想いを、この口付けに託して。




















創作アンケートにて投票いただいたキャラで創作を書こうということで書かせて頂いた弁慶創作ですv

望美Sideと弁慶Sideに分けて書いてみたのですが、弁慶Sideはやけに切なめです(苦笑)
もしかして、全然甘くないですかね?

場面的には、弁慶ルート1周目で屋島の戦いに出る直前といった所ですね。
自分の心は読み取られない自信はあるけど、自分は君の心がお見通し。見たいな感じで(笑)



















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